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東京高等裁判所 昭和59年(行ケ)70号 判決

一 本件に関する特許庁における手続の経緯、本願考案の要旨及び本件審決の理由の要点についての原告主張の事実は、当事者間に争いがない。

二 そこで、本件審決を取り消すべき事由の有無について判断する。

1 前記当事者間に争いない事実に、成立に争いのない甲第二号証(本願願書)及び第三号証(本願公告公報)を総合すると、次の事実を認めることができ、これに反する証拠はない。即ち、

本願考案は電子写真複写機用熱定着器における軸受装置に関するものであつて、一般にグリースを使用した軸受は、軸受を適温状態で使用した場合は耐久性が極めて良いが、高温状態で使用した場合は軸受内のグリースの劣化が適温状態で使用した場合と比較して極めて大きいため軸受の寿命が半減する。右の、グリースの劣化現象は、グリースが熱の影響を受けて酸化劣化又は熱劣化が促進され、その結果、スラツジの生成、粘度の増加、腐食性酸化物質の生成、乳化等を引き起こし、充分な潤滑作用が妨害されているから、軸受を高温状態で使用し、寿命を長くさせるためには、右の、グリースの酸化劣化又は熱劣化現象を防ぐ必要がある。そこで、グリースの酸化劣化又は熱劣化を防止するには、軸受部に対する熱伝導を極力おさえることが必要であるが、この熱伝導をおさえる方法として、従来は、軸受と接触状態にある軸に放熱片等を取り付け、加熱により軸自体の熱を降下させて軸及び軸受を冷却する方法がとられていた。然し、この方法は、軸受部付近に大きいスペースを必要とし、装置が大型化する等の欠点があり、他の方法も右の方法より多くのスペースを必要とするとか耐久性が劣るなど実用上の欠点があつた。このように、電子写真複写機の密着式加熱定着装置内の熱ロールの軸受にグリースを使用した場合、グリースの酸化劣化或いは熱劣化現象が多く発生し、ロール軸受の耐久性を低下させている。本願考案は、前記のような欠点を一掃すべく考案され、即ち、本願考案の構成をとることにより、加熱された熱定着ロールの軸部にシリコーン樹脂又は熱硬化性ポリイミド樹脂等で形成された断熱性部材を介して軸受部に軸支し、熱定着ロールの高熱が直接ベアリング等の軸受部に伝導するのを防止して、軸受体内の潤滑剤であるグリースの劣化を防止し、長期間にわたり軸受体の使用を可能にし、軸受の寿命を延ばすことができた。

右のような事実を認めることができる。

2 ところで、原告は、本件審決は、本願考案の奏する特段の効果を看過誤認し、本願考案をもつて引用例の発明と同一であるとした違法がある旨主張する。そして、

(一) まず、原告は、本願考案が断熱性熱遮蔽リングの材料としてシリコーン樹脂又は熱硬化性ポリイミド樹脂を使用したことにより、右の、リング自体が耐久性を有するので、軸受装置の寿命を延ばすことができ、ひいては電子写真複写機用定着器を長期間使用できるようになつた旨主張する。然しながら、前記認定の事実に前顕甲第二、第三号証及び本件口頭弁論の全趣旨を総合すると、本願明細書によれば、本願考案は、高温状態で軸受を使用した場合に熱によりグリースが酸化劣化又は熱劣化するのでこれを防止するために熱定着ロールの軸支部と軸受部との間にシリコーン樹脂又は熱硬化性ポリイミド樹脂からなる断熱性熱遮蔽リングを介在させることにより、軸受体内の温度上昇をおさえてグリースの酸化劣化又は熱劣化を防止するようにしたものであること並びに、右述の趣旨のもとに本願明細書にはその考案の目的・構成及び効果が首尾一貫して記載されているものであることを認めることができるものの、原告主張のようにリング自体が高温状態における耐久性を有すると認むべき記載はなく、またリング自体が高温状態において耐久性を有することを推認すべき例えばその機械的強さ及び耐摩耗性等を理解するに足る記載もない。してみれば、リングの耐久性を前提とし、その故に原告主張のような効果を奏するとする原告の前記主張は採用し難い。

なお、原告は、ポリイミド樹脂、シリコーン樹脂並びにフエノール樹脂からなるリングを、熱定着器における軸支部に介在させた場合の耐久試験結果を示すものとして、甲第五号証を提出するが、成立に争いのない同号証を検討すると、その耐久試験なるものは、ベアリング内周面と断熱性熱遮蔽リング外周面との間に、間隙をおいている場合についての試験結果であることを認めうるところ、本願考案はベアリング内周面と断熱性熱遮蔽リングの外周面との間に間隙を設けることを構成要件とするものではないことが当事者間に争いのない本願考案の要旨から明らかであるから、同号証をもつて本願考案が奏するとする効果なるものを認むべき資料とはなし難い。

(二) 次に、原告は、本願考案における軸受部材が特に小型化された旨その効果を主張するところ、前顕甲第二、第三号証によれば、なるほど、明細書には、「従来の軸受部材に比して特に小型化を可能にした」旨記載されていることが認められるものの、右記載中の「従来の軸受部材」につき軸受装置の小型化に関連する明細書中の記述をみるに、同明細書には「従来は軸受と接触状態にある軸に放熱片等を取り付け、加熱により軸自体の熱を降下させて軸及び軸受を冷却する方法がとられたが、この方法は軸受部付近に大きいスペースを必要とし、装置が大型化する欠点があつた」旨記載され、してみれば、右の従来の軸受部材というのは、軸に放熱片を取付けた構造のものであることを認めうるので、この事実と前顕甲第二、第三号証とからすると、原告が主張する右効果なるものは、軸に放熱片を取り付けたものの代わりに、本願考案において、断熱性熱遮蔽リングを採用したことにより生じたものということはできても、右リングの材質をフエノール樹脂ではなくてシリコーン樹脂又は熱硬化性ポリイミド樹脂としたことにより奏する効果であるとは認め難いので、原告の右主張も採用することができない。

(三) してみれば、本件審決には、結局、原告主張のような看過誤認はないことに帰するから、効果の看過誤認を前提とする前記主張は採用することができない。

三 よつて、本件審決の取消を求める原告の本訴請求は、理由がないので棄却することとする。

〔編註その一〕本願考案の要旨は左のとおりである。

加熱用ヒーター、これを包囲する加熱ロール、該ロールと一体であり、該ロールから熱が伝わる軸支部、及び、該軸支部を軸受する軸受部で構成される加熱ロール部と、該加熱ロール部に対向して配置された圧着ロールとからなる熱定着器において、前記軸支部をシリコーン樹脂、又は、熱硬化性ポリイミド樹脂からなる断熱性熱遮蔽リングを介して、前記軸受部に軸支したことを特徴とする熱定着器における軸受装置。(別紙参照)

〔編註その二〕本件に関する別紙は左のとおりである。

別紙

<省略>

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